「ミカちゃんは何処にいるのかな〜?」
扉からひょいと顔を覗き込むと、くすくす笑う声が漏れていた。
レースカーテン越しから差し込む月夜の光。
8畳ほどの部屋の左側にはデスクと本棚、正面の窓ぎわにはベッドが設置されていて、その右側にはクローゼットになっている。
背後から浴びているリビングの照明が家具の色彩を映し出していて記憶に収まっていく。
ベッドにこんもりと山になっている夏掛けが小さく揺れているのがわかったので、部屋に入って夏掛けをまくりあげて顔を傾けた。
「こっこだぁあああ〜! 見つけたぞおぉぉお〜!!」
「きゃあああああ!!」
ミカちゃんは目が合うときゃあきゃあ叫びながら夏掛けの隙間を脱出してリビングへと走って行く。
子どもらしさが全開になっていてやれやれと思いながら振り返ると、机の上のものに目が止まった。
乱雑に置かれているのはテレビドラマの台本。
その隣には新聞と写真立てに収まっている家族写真が飾られていた。
思わず手に取って家族写真を眺める。
そこに写ってるのは、父親と母親らしき人と彼とミカちゃん。
ミカちゃんの成長具合からして、わりと最近に撮られたものだと思われる。
「へぇ、これが阿久津ファミリーかぁ。渋い雰囲気のお父さんに、日向そっくりのお母さん。ミカちゃんはお父さん似なんだね」
初めて見る家族写真にほっこりしていたが、手前にある新聞が目に入って、写真と新聞を持ち替えた。
「日付は8月21日。……あれ? 新聞をよく見たら去年のものだ。どうして古い新聞をとってあるんだろう」
四つ折りに畳まれている新聞を開くと、そこには去年起きた落雷事故のニュースが載っていた。
その事故とは、市街地を走行中の車が落雷被害に遭って炎上してしまい、2名の死者を出していた。
なぜその記憶が残ってたかというと、事故現場が私の自宅から2キロ圏内だったから。
あの日は救急車のサイレンと眩い光が街を包み込んでいた。
あれから1年経ったんだなぁと思いながら再び新聞を眺めた。
「車の走行中に落雷に遭うなんて避けようがないから怖いな。大人2名が亡くなったんだ。恋人かな、それとも夫婦かな。……えっと、名前は……」
バサッ……
両手に持った新聞をマジマジと見て読み上げていると、急に新聞が上部へと引き離された。
背後に振り返ると、そこには帰宅したばかりの日向の姿が。
しかも、今まで見た事もないくらいの剣幕で見ている。
「人の部屋に勝手に入って何してんの?」
「ごっ、ごめん……。ミカちゃんがかくれんぼを始めたから追いかけた弾みで部屋に入っちゃった」
「俺の忠告を忘れたの?」
「ううん!! 忘れてないけど、ミカちゃんをお風呂に入れなきゃいけないから早く連れて行かなきゃと思ってて……」
身振り手振りをしながらみっともないくらい言い訳をした。
あれだけ入らないでと忠告されていたにもかかわらず、彼の気持ちを無視して部屋に入った挙句に室内のものに勝手に触れてしまったのだから。