無音に包まれている部屋でひたすら待っていると、22時過ぎにようやく玄関扉のキーが開く電子音が聞こえた。
膝裏をイスに押し当ててから小走りで玄関に向かい、靴を脱いでいる彼の前に立った。
「お帰りなさい。今日は遅かったね」
「あれ、まだ帰ってなかったの? もう22時過ぎてるよ」
彼はびっくりした目でそう聞いた。
私が帰宅したとでも思っていたのだろうか。
「だって、ミカちゃんを家に1人きりには出来ない」
「20時に寝かせれば平気だよ。お前が来る前はそうやってきたし」
「心配なの。もし、家に誰もいない時にミカちゃんに何かあったらと思うと……」
「えっ……」
「急に熱を出したり、地震が起きたり、火事になったり、泥棒に入られたり。予想外の事態に巻き込まれた場合に対処出来る人が傍にいないのは心配だし。小さい子を預かるというのは、それなりの責任を持つという意味だよね。だから、日向とバトンタッチしたら帰ろうと思ってて……」
ただのアルバイトだからそこまで責任を感じる必要はないかもしれないけど、もし自分がミカちゃんの立場だったら寂しくて耐えられないと思うから。
すると、彼は5秒ほど黙り込んだ後、俯いたまま言った。
「……そ、だよな。俺はそこまで考えてなかった。ミカが眠りについたらもう心配はないと思っていたけど、寝ている間に何か遭ったら誰も対処できないもんな」
「勝手な事をしてごめんなさい。でも、自分が言ってる事は間違いないと思ったから」
「ありがとう」
「えっ……」
「お陰で大事な事に気づかされたよ。これからは遅くなるようだったらお前に連絡する。だから、連絡先教えて」
「うん。帰宅が遅くなりそうだったら必ず連絡してね」
こうして2人はスマホを出して連絡先を交換した。
日向は玄関で結菜を見送ると、ミカの部屋の扉を開けて暗闇の中で寝静まっているミカの元へ行き、髪を柔らかく撫でた。
「俺はミカの家族なのに知らない間に寂しい想いをさせてたんだな。あいつの方がミカの事をしっかり考えてくれてたなんて……。あいつに言われるまで気づかなくてごめん」
日向は結菜に指摘されて反省点が浮かび上がり、家族としての対応を考えさせられるきっかけになった。