ーー翌々日の月曜日。
昼食後に日向から呼び出された結菜は、学校の屋上でマンションのカードキーを受け取った。
突然の事態に思わず目を見開く。
「今日はミカがピアノの日だから先に家に上がってて。17時過ぎには林さんと一緒に帰って来るから」
「でも、こんな大切な物なんて預かれないよ。私はただの家政婦だし、ミカちゃんが帰宅している時間にシフトをずらした方がいいんじゃない?」
家政婦とはいえども貴重品を預かるなんて責任が重い。
しかも、1人で留守番をするなんて初めての経験だし。
「シフトを変える方が面倒くさい。……あ、誰もいないからって俺の部屋に侵入するなよ」
「念を押さなくてもわかってるよ。……もしかして、人に言えない趣味でもあるの?」
「は? そんなのねぇし。洗濯物のパンツを両手で掲げているお前に信用がないだけ」
「あっ、あの時はたまたまよっ!! 目の前にパンツがあって干そうとしただけだし……」
「ど〜だか……」
日向は意地悪な目でプッと吹き出して背中を向けるが、ふとある事を思い出して振り返る。
「そういえば、おととい俺のインスタが【ユイ】って人に荒らされてたんだけど、お前じゃないよな」
「えっ……(ギクッ)。私はあんたのインスタなんて興味ないし」
「……だよな。【結菜】の頭文字を取って【ユイ】にして、俺に不満をぶちまけてるかと思ったよ」
「……(恐るべき洞察力)」
「相当ひどい事が書かれてたからファンが激怒してコメントが炎上してたから気になって。……ま、お前じゃないならいいや。じゃあ、今日はよろしく」
彼は私の嘘にあっさりと騙されると屋上を去って行った。
やばっ……。
やっぱりあれからインスタが炎上してたんだ。
確かに通知ラッシュが止まなくて怖くなったから、あの後はスマホの電源を落として逃げた。
あ〜あ、余計な事をしなければよかったな……。
ーーそれから数時間後。
17時ちょっと前に日向のマンションに到着して家事を進めていると、スタッフがミカちゃんを連れて家に戻ってきた。
彼女は相変わらず『こんにちは』以前に『ただいま』すら言わない。
私が家に居ても関係なくいつものようにソファーに寝転んで片足を垂らす。
未だに変化が感じられない関係に思わずため息が漏れた。
でも、私が日向のお陰で変われたように、今度は私がミカちゃんを変えてあげたいな。
お腹からいっぱい笑ったり、沢山おしゃべりしたり。
先日あいつが言ってたように本音でぶつかってみようかな。
年上目線じゃなくて同世代目線で。
私にもできるかな……。
結菜は掃除機をかけ終わった後、ソファの前にしゃがんでミカと目線を合わせた。