「あのさ。ミカの事を気にしてくれるのはいいけど、人んちの家庭事情まで詮索しないでくれない?」
「えっ……」
「そーゆーの迷惑だから。洗濯物を畳み終わったら帰っていいよ。お疲れ様」
日向は蛇口レバーを下ろして止水すると、素っ気ない態度で自分の部屋へ向かった。
リビングに取り残された結菜はドライな対応に言葉を失わせる。
ーー帰りの電車内。
結菜はスマホを手に取って日向のインスタを開いた。
なんか、今日も丸1日あいつに振り回されっ放しだったな。
自信過剰かと思えば、人の心配を踏みにじってくるし。
……うわっ、何この写真。
ドラマの衣装かな?
藍色のスーツで青いラベルに肩と袖と胸に金の装飾が施されていて、ベージュのベストに白いシャツの首にぶら下がってる黒い蝶ネクタイ。
これって明らかに王子様の格好だよね。
しかも、誰もが認めるほど美しい顔立ちをしているからリアル王子様感がパンパないんだけど。
コメント欄に目線を向けてみると……。
『悟王子かっこいい♡』
『王子様、私を迎えに来て〜♡♡』
『最っっ高♡ この画像を待ち受け画面にするー!』
『お姫様はここにいますよ〜♡』
熱狂的なファンが王子様姿を激褒めしている。
それを見た途端、少し腹が立った。
この人達はあいつのドス黒い本性を知らないから。
『みんな騙されないで!! こいつは王子様じゃなくて心が真っ黒黒の黒王子だよ。黒・王・子!! 黒玉子じゃないよ、黒・王・子!! 自信過剰な俺様勘違いヤローなんだから騙されないように注意して!』
リア王感覚でコメントを打ち込んで今日の鬱憤を晴らしていたけど……。
さすがにこのコメントは失礼だよね。
ファンにとって推しは神様のような存在だし、本人もモチベーションを上げて欲しいと言うくらい褒めて欲しいタイプだし。
結菜は一旦思い留まって打ち込んだコメントを削除しようと思い、画面に指を近づけた。
ところが、ちょうどそのタイミングで電車がガタンと激しく揺れて手元が誤ってしまい、送信ボタンを押してしまった。
「うわっ、やっば〜!! 誤って送信しちゃったよ。送るつもりなかったのになぁ。……ま、すぐに消せば問題ないか」
と、楽観的に考えて呟いたのも束の間。
ピコ〜ン。
最初の通知音が鳴った後から隙間なく通知音が鳴り続けた。
音と共に通知画面に流れてきたの……。
『はぁ? 黒王子って何? 悟に謝ってよ』
『王子様に向かって黒王子ってひどくない? どーゆー神経してんの?』
『黒玉子に自爆〜w』
『悟がコメントを見てたらどう責任取ってくれるの?』
『この【ユイ】ってニックネームの人に注意して!! こいつヤバいから!』
あいつを擁護するコメントだった。
つまり、私は誤送信を機にコメント荒らし扱いに。
雪崩のようなスピードで流れてくる非難コメント。
次第に目で追える段階ではなくなって、フォロワー数500万人という厚みがより一層身に染みていく。
杏にパシられている方がまだ100倍もマシと思うくらい延々と心理攻撃は続いていた。
この後、彼のインスタが荒れたのは言うまでもない。