「それは一理あるかもね。じゃあ、今日の嬉しかった出来事から発表しちゃおうかなぁ〜」
「おーおー、言ってみ」
「実は昼休みにみちると一緒に購買へ行ったらさ、ななな、なんと! 二階堂くんにデートに誘われちゃったぁ!」
「……は?」
「憧れの人にデートに誘われたのは初めてで、何着て行こうかなとか、何処へ行こうかなとか、デートの事で頭がいっぱいになっちゃって、頭の中がパンクしそうなほど幸せだったよ。キャッ、言っちゃった〜!」
キッチンで洗い終えたお皿を拭きながら、二階堂くんとの昼間のやり取りを思い描いていた。
しかし、幸せな空気は一瞬で暗雲の空気にかき消される事に。
「その話ならパス。他の人に言って」
「えっ、どうして? さっきは何でも話していいって言ってたじゃん」
「俺のモチベーションを上げるのも家政婦の仕事だろ? お前が他の男の話をしても俺には何のプラスにもならない」
前言撤回……。
余計な話をするんじゃなかった。
自分のモチベーションが下がる話を聞きたくないんだったら先に言えばいいのに。
一瞬でもこの人を尊敬した自分がバカだったよ。
「日向のモチベーションを上げる話なんて誰からもひとことも聞いてないんだけど」
「常識的に考えてみろよ。『日向に毎日会えて嬉しい』とか、『日向が地球上で一番かっこいい』とか、家政婦ならタレントのモチベーションを上げるのが普通だろ」
「あんたの事務所どうなってるのよ……。何よ。親友と言ったり、家政婦と言ったり、自分の都合のいいように言い分けてさ。訳わかんない」
私は口をツンと尖らせながらそっぽを向いた。
テレビで観ていた通り彼は俺様キャラ。
ある意味ノー天気というか平和で羨ましい。
すると、彼は突然吹き出した。
「あっはっは。ちゃんと本音を言えてるじゃん。それって俺に心を開いてくれた証拠だよね」
「……あれ、本当だ。自分でも気づかない間に……」
「せっかく生まれ変わったんだから少しずつ自分の事を話せるようにしていこうよ。つまんない意地を張ってると損するよ」
「うん、あはは。そうだね。……あっ、ねぇ。日向は私以外に友達作らないの?」
「別に要らない」
「どうして?」
「面倒くさいから」
「わかった。隠キャだからでしょ」
「あのなぁ〜、お前と一緒にすんなよ。元隠キャのクセに」
「もー! 私は生まれ変わったの」
日向と一緒にいると不思議と気持ちになる。
昔から仲の良い友達のような、家族のような、お互いを知り尽くしている間柄のような。
人をこんな風に思ったのは何年振りかな。
思い出せないくらい懐かしい。
ーー帰り道の電車内。
私は扉に寄りかかりながらスマホを片手に日向のインスタを開いた。
そこに写っていたのは、撮影現場で自撮りしたものや、仲が良いと思われる先輩俳優たちと一緒に撮ったもの。
日付を見たら2日に一度は更新してる。
突拍子もない事ばかりしてくるから計画性がないと思っていたけど、結構小まめなタイプなんだね。
元々は縁もゆかりもない人だけど、家政婦をしてるうちに身近な存在になっていた。
学校では隠キャ生活を送ってる普段の彼とは別人のような姿に、画面をスライドする手が止まらなくなった。