「な、に……これ……。『高杉悟、熱愛発覚』って……」



ーー翌朝、ある画像がネットニュースを賑やかせていた。
それは、昨日私と日向が公園で抱き合ってる写真。
彼と公園で会った際に、どうやら誰かに撮られてしまったらしい。
登校中に電車内でスマホを触っていた時に偶然その記事を発見した。
私の顔にはモザイクが入ってたけど、彼は正面から写ってるせいで誤魔化しようがない。

しかも、そこに書かれていたのは、帰国子女と感動的な再会と恰も本物のように書かれたでっち上げた記事。
彼がマスコミを嫌がっている理由が明らかになった瞬間でもあった。

それだけじゃない。
私に向けた心ない非難コメントがパンク寸前に。


……どうしよう。
私が浅はかな事をしたから彼に迷惑をかけてしまった。
でも、昨日はミカちゃんを探しに行かなければならなかった。
お互いの距離感をきっちり守っていれば、こんな記事が出回る事はなかったのに。


教室の中に入ると、クラスメイトはこの話題でもちきりに。
席につく一歩手前でみちるに「話をしない?」と呼ばれて、ひと気が少ない4階の理科室前に移動した。



「結菜……、SNSで拡散されてる高杉悟の写真の相手の女性って、もしかして……」



私は素直にコクンと頷く。



「記事には『熱愛発覚』って書いてあったけど、あれは嘘。私達は気持ちが繋がって抱き合ってるんじゃないから。しかも、帰国子女って想像力膨らませすぎだよね。笑っちゃうよ」

「2人は上手くいったんじゃないの?」


「ううん、全然……。昨晩、彼の妹が行方不明になって、彼から連絡が入って会った時に撮られたみたい。あの時はつい感情的になってただけなのに。記者は私達の関係なんて知らないから好き勝手に書いてるだけ。私は今でも片想いだから」

「結菜……」


「昨日は会えただけ幸せだった。本当は、恋が成就しないとわかってても『好きだよ』って伝えたかったのに、彼の将来を思ったら言えなかった。だから、これが最後の思い出だったんだよ」



昨日の出来事を思い出しながら喋っていたら自然と涙が溢れてきた。

彼は過去のトラウマに苦しみながら何時間もミカちゃんを探し回っていて、私に連絡してはいけないと思いながらも電話をかけてきてくれた。

『お前しか頼る人がいなくて』って。
『平気……じゃない。助けて…………』って。
これが、どれだけ嬉しかった事か。


この想いは誰にも止められないし、会えば会うほど想いが募っていく。
抱きしめられた瞬間は窒息しそうなほど幸せだった。
私達は絶対に繋がらない恋なのにね……。

みちるはポケットからミニタオルを出して結菜に渡した。



「涙……大丈夫? これ使って」

「ありがとう」


「私は阿久津と繋がってる訳じゃないし、難しい恋をしてるようだから大したアドバイスにならないかもしれないけど……。もし次に会えた時はちゃんと気持ち伝えなよ」

「えっ」


「私には2人の恋愛事情はわからないけど、好きじゃないならリスクを背負ってまで抱きしめたりしないんじゃないかな」

「……」


「阿久津が結菜の運命を変えてくれたんでしょ。だったら、その期待に応えて思いっきり変わらないと。それに、阿久津自身も結菜の成長を望んでるんじゃないの? だったら、もっとしっかりしなきゃダメだよ」



みちるは心強くそう言うと、私の肩をポンっと叩いた。

お陰で少し勇気が湧いた。
もう二度と会えないと思ったけど、昨日は突発的に彼が連絡してきてくれたように、これから先の事なんて誰にもわからない。
自分にできる事は全てやってきたし、それまでしてきた事に後悔はない。

だから、あとは自分が強くなるだけ。
髪を切って変身した時のように、弱気な殻を打ち破るだけ。