ーー夕食を終えてから部屋のベッドの上でゴロゴロしながらスマホを片手に求人サイトでアルバイト探し。
3サイトに登録したけど飲食店の求人ばかりで見飽きた。
「はあぁぁぁ……、どうしよう。少しでも家計の足しになるように高額バイトを探してるけどなかなか見つからないし」
アルバイト探し始めてから丸10日。
高校生の収入なんてたかが知れてるけど、週5日パートでフルタイム勤務の母親と、週4日バイト勤務の大学生の兄の2人で家計を支え合ってる様子を見ていたら、心は一つに決まっていた。
ーーしかし、そんな最中。
予想外の吉報が舞い込んでくる事に。
コンコン……
「はぁい」
「結菜〜。アルバイトの件でちょっと話があるの」
扉の奥から聞こえてきたのは母の声。
早速部屋に招き入れて、2人並んでベッドに座って話を聞く。
すると、我が耳を疑うほどの好条件に息を飲んだ。
「えええっっ!! 時給2500円?! 今まで貰ってた倍の時給……」
「平日週5日勤務で、17時から21時までの4時間の仕事なんだけどね。どうやら人手がなくて困ってるみたい」
「ちょっと待って! それってヤバい仕事じゃないよね。水商売とか、いま問題視されてる闇バイトとか……」
「失礼ね~。そんな怪しい仕事を持ってくる訳ないでしょ」
「そうだよね……」
「実は由美が勤務してる仕事なんだけど、もうすぐで出産でしょ。だから代わりの人を探してたんだけど、先方が提示している条件が厳しくてなかなか見つからなかったみたい。1日でも早く交代したいから、条件が合う子はいないかって言われてね」
ちなみに『由美』とは母親の13歳年下の妹。
おととし結婚して、いまは臨月だそう。
私も初いとこ誕生を心待ちにしていたところだった。
「叔母さんの出産予定日はあと3週間後だったよね」
「そうなんだけど、どうやら早産の気配があるからいつ入院になるかわからないみたいで……」
「そっか……。で、勤務内容は?」
「家政婦と子守りよ。出来れば女性で秘密厳守出来る人と言われてて」
「ちょっと待って〜。子守りと言われても資格や経験がないし、お母さんも知ってる通り家事だって出来るというレベルじゃ……。それに、学生でも務まる内容なのかな」
「炊事洗濯掃除に加えて、4歳の女の子と少し遊んでお風呂に入れてあげればいいみたいよ」
「へぇ〜。そんなに難しくなさそうで時給がいいのに、どうして代わりが見つからなかったんだろう」
「そこがよくわからないのよね。由美はいつ産気づくかわからないから早く辞めたいって言ってるし、先方も代理が見つからなくて困ってるみたい」
「そっかぁ……。興味はあるけど4歳の子のお相手が出来るかどうか」
「どうしても出来そうになかったら、また代わりを探してもらえばいいじゃない。せっかくいいお話を頂いてるんだからやってみたら?」
「そうだね。叔母さんにも安心させてあげたいし」
「じゃあ、由美に話を通しておくからね」
「よろしくね」
母は返事を受け取ると、すくっと立ち上がって部屋を出ていった。
あんなにたくさん求人サイトを身漁ったのに、想像以上にあっさり決まるなんて思いもしなかった。
しかも、高時給に加えて人の目に触れる機会が少なそうだし。
家政婦を雇うくらいだから、きっとお金持ちの家なんだよね。
コミュニケーションを図るのが苦手だから、あまり厳しい家じゃないといいな。
結菜は布団に入るまでの間、雇用主の裕福な家屋や家政婦になった自分を想像していた。
しかし、簡単に決意してしまったが、天国と地獄を行き来するほど厄介な未来が用意されているとは想像してない。