*梅野side*



3月に入り、ぽかぽかと春に踏み込み始めた頃、教室は少しざわついていた。

お昼寝でもしようと思ってたけど、無理そうだなぁ。どうしても耳に入ってくる内容はあまりいいものではないわけで。




「ねぇ、花音の顔やばくない?」

「ね、家庭内暴力?」

「違うと思う、男だよ、あたし見たことあるもん」




ひそひその渦の中心となっているのは、同じクラスの真波さん。いつもは友達と楽しそうに喋っている彼女だけど、今日は少し様子が変だ。

ちら、と見えたけど、顔にあざができてた。
赤い痕みたいなのも…。大丈夫かな。




「ヤバいやつと付き合ってたんだ」

「そうみたい」



ギリギリ聞こえるくらいの声で話してるのは、真波さんとよく一緒にいる子たち。

誰も、心配とかしないのかな…。
明らかに嫌な感じが漂うその空間に耐えきれなかったのか、真波さんがガタッと立ち上がる。



「…あ」



教室を出ていく寸前、唇をずっと噛んでいたのか、血が滲んでいるのが見えた。