「よ、夜市くん……あっ、」

「氷ちゃん、今なんて?」

「…そうだったのか」



テーブルに両手をついて立ち上がる母さん。ソファーでゆったりしていた父さんは口を開けてこっちを見る。



「ごめんなさい…っ」



そして梅野はテンパっているのか、残り僅かだったオレンジジュースを溢してしまい……。




「俺が拭くから落ちつけ」

「…ありがとう」



布巾で処理し終わると、驚きを顔に乗せたままの母さんが、ぐんと詰め寄ってきた。



「梅ちゃんが彼女って、本当?」

「あぁ」

「なんで言ってくれなかったの!?」

「べつに理由なんかねーけど。偶然会ったなら、この際言っとくかなって」



そもそも、手当されたとき泊まって翌朝帰ってんのに、なんで怪しまねーんだ。考えもよらなかったらしい母さんは丸くなった瞳を輝かせて梅野の両手を包んだ。