「夜市くん、」
「………」
「のこと、………わたしも、すき」
ガタッとイスが動く。
今だけはどんな騒がしさも入らない鼓膜が梅野だけの言葉を汲み取って揺れた。
は?と目を見開いた俺は、思わず梅野を凝視する。
………今、好きって聞こえたぞ。
そんなはずない、だって梅野は………
「おまえ、布瀬が好きなんじゃねーの?」
「え?」
「……この間、家の前で抱き合ってたろ」
「え!? み、見てたの!? あ、いや、違うの、あれは………」
誤解を紐解くように喋り出す梅野。
布瀬の母親が倒れたという話を聞いていくうちに、だんだんと俺の思い違いだったことがわかり、ばつが悪くなって俯いた。
「わたしもひとつ、聞きたいことあるんだけど………、あの、前に見ちゃって。女の子追いかけて楽しんで、自分になびいたら捨てるんでしょって話しかけられた夜市くんが、そうそうって頷いてたとこ。本好きの女がいるって、あれって………わたし、だよね?」
突然の話に頭が混乱する。
「あれ聞いてたから……だから、もしかして、わたしへの告白、もしかしたら、本心じゃなかったりするのかなって……少し、よぎっちゃったの」
「っ、」
「ごめんなさい」
「ふざけんなよ…っ、俺が、どんな気持ちで…。嘘で好きとか、そんなこと言うわけ……っ」
最後まで言いかけて、ぐらりと頭を歪められたような衝撃が走る。
………違う。
こいつは、悪くない。