「どういうつもりだ」
「あそこで、ゆいちゃんが待ってる。バイトじゃなくて、話したくて氷牙を待ってんの」
「………話したくない」
「おまえじゃなくて、ゆいちゃんが話があるって言ってんだって。聞くくらい、してやんなよ」
逃げようとする体勢をぐっと掴まれる。
言うことを聞かないガキを叱るように、「いい加減にしろよ」と直江が吠えた。
それはこっちのセリフだ。
こんなとこまで連れてきて、なにが気晴らしだ。やっぱり魂胆があったんじゃねーか。
「あそ。おまえこのまま帰ってもいいけど、その代わり、次会うとき、それと同じ面見せんなよ?」
「は?」
「いつまでもぐだくだ、俺落ち込んでますって顔面貼り付けて心配かけやがって。そのだっせー顔、次見せたらぶん殴るからな」
「ぶ、ぶん殴るだと…?」
「あーそうだよ」
がしがしと苛ついているような雑さで髪を掻き乱した直江が、ぴた、と動きを止めて俺を見る。
いつものおちゃらけた様子とは違う、怒りを含んだ双眸に、背筋がヒヤリとした。
「氷牙」
「…な、んだよ」
「おまえ、ゆいちゃんのこと好きなんだろ」
「………」
「だったら、好きな子の話くらい、一言一句逃さずに最後まで聞いてやれるくらいの男でいろよ」
避けてばっかで情けない、とわざとらしくため息を落とすいつもの直江に、なにをっと目線で対抗する。