その氷牙が今、ゆいちゃんという存在に目を留めている。自分から興味を持つなんて、俺の知る限り初めてのこと。

無関心なやつにはとことんクズになれるくせに、好きな子ができたら呆れるほど空回り。


ゆいちゃんっていう、氷牙の一定だった感情に訪れた変化を俺は結構気に入ってる。



布瀬には悪いけど、ぶっちゃけ、ゆいちゃんじゃなくても相手は見つかると思うんだ。布瀬はいい男だから。

だけど、氷牙には。好きと嫌いが極端すぎるあんなわがまま野郎には、この先ゆいちゃんみたいな存在が現れるかすら怪しい。




「明後日の放課後、空いてる?」

「え?」

「ゆいちゃんのバイト先のファミレス、あそこに氷牙連れてくからさ、好きなだけ話してよ」

「……いいの?」

「ん、氷牙に話あるんでしょ?」

「…ある」

「じゃあ決まりだ」




悪いんだけど、ゆいちゃん、あいつを頼んだよ。


連れてけるかな、と若干不安になりながら空を仰ぎ見る。


……なんで俺が手助けを、なんて。
長年の付き合いが情が移ってしまったんだから、しょうがない。




「直江ー、試合開始だってー」

「はーい」




これでうまくいかなかったら、2、3発は殴ってやる。そう決意しながら、体育館に戻った。