布瀬が最低限の歩幅だけを埋めるように手を伸ばす。華奢な身体は簡単に引き寄せられてしまった。

抱きしめている布瀬の頭に隠れて梅野の表情が見えない。


引き離したい衝動を堪えながら拳を握ると、次の瞬間には目を見張るような光景が広がっていた。




………おかしい。

こんなのは、見たくない。


梅野の手がゆっくりと布瀬の背中にまわる。


そうか夢か、なんて幻想はやけに冷静な頭に打ち砕かれて見失う。




ちがう、今あそこにいるのは、布瀬と抱き合ってるのは梅野じゃない。梅野なんかじゃない。そう言い聞かせれば言い聞かせるほど梅野でしかなくなっていく。


胸のどこかが圧迫されるように痛む。


さっきまでは布瀬ひとりの意思だった行動が、今ので完全にふたりの合意になった。



……なんでだよ。


渡すはずだった洋菓子の箱がゆらりと歪む。

目頭にぐっと込み上がってきそうななにかを抑えて背を向けた。



見えなくなっても、頭から離れないふたり。



俺の、なにが足りなかった?
そりゃあ散々遊び人で通ってきたけど、今は俺だって、布瀬と同じで、梅野じゃなきゃだめなくらい、想ってんのに。



右も左もどうでもいいまま歩き続け、家に着いた頃には、時間の感覚さえもあやふやだった。




そして、




『ねえ、夜市氷牙の本命は梅野さんじゃないよ。だって梅野さんには布瀬くんがいるもん』

『最近いつにも増して一緒にいるよね。そうそう、冬休みもね、外でふたりのこと見かけたの。あたしバイトで電車乗るんだけど、結構な頻度であのふたり一緒に乗ってた』




冬休み明け、入り込んできた誰かの会話の内容は最悪なものだった。