「あ、おかえり、氷ちゃん」
「……」
「え、ちょっと氷ちゃん、ただいまは?」
「…ただいま」
「おかえり。…なに、その驚いた顔。夕飯は?」
「今ちょっと、それどころじゃない」
どういう意味よー、と母さんの声が追いかけてくる。後ろでは、「なんだって?」と父さんが新聞から顔を上げていた。
「あ、そうだ。この間助けてくれたって子、なんて名前の子?」
「……は?」
「ほら、氷ちゃん傷だらけで帰ってきたじゃない」
「あぁ…」
母さんの過剰な心配の下、アフターケアされた傷は、今はもう跡すらない。
絆創膏を貼った顔に家族はもちろんのこと、学校でもすれ違う度に視線を浴びたりした。
そしてあの時言い繕った「喧嘩に巻き込まれて知り合いに手当てしてもらった」という嘘を思い出す。
「氷ちゃん、その子の家教えて。やっぱりお礼しなきゃ」
「いや、いーよ」
「だめよ」
「いいって」
今その子に衝動告白してきたんだよ、家なんか行けるわけねぇ。
しつこい母さんをなんとか振り切り自室に籠る。
頭のなかは梅野で溢れていた。