誰もが早く帰宅したい放課後。
人が減ってきた教室内で、俺は自分のイスを引いて梅野の席まで持っていった。
「課題、教えてくれ」
何問か空欄にしておいたプリントを机に置くと、数人がちらほらとこっちを振り返る。
無関心と好奇心のちょうど中間のような視線は、おそらく最近、夜市氷牙の本命は梅野なんじゃないかと一部の間で憶測が飛び交っているからだろう。
梅野はこの噂知ってんのか?
だとしたら、表情に変化が顕れるはず……。
けれど、「ここはね…」と空欄の箇所を説明しだす梅野は普段となにも変わったところはない。
やがて、みんなが教室から出ていく。
ついには、俺と梅野のふたりになった。
「夜市くん、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
込み上がってきた欠伸を漏らすと、ゆるりと整列した睫毛が持ち上がった。
そのせいでプリントじゃなく、ずっと梅野を見ていた視線に気づかれてしまう。
……やべ。
妙な緊張感に包まれた。
揺れた瞳をやや下げる。