かさかさ、ごそごそ、と。
静寂のなかの作業音だけが人の気配を保っている。


………すげー気まずい。

職員室は結構離れてるし、あと数分は布瀬と俺だけのままだな。



まるで試験を受けているときのような静けさのせいで、紙の上にのりを滑らせるのでさえ変な緊張感が生まれてしまう。

心なしか痛くなってきた背中を伸ばすと、布瀬がじっと俺を見ていた。




「……なんだよ」


「…いや、お礼を言ってなかったなって」


「……は?」




言葉の意味がわからず片眉を下げると、布瀬が動かしていた手を止めた。




「ゆいの噂の件、助けてくれたって聞いた」

「………」

「今は周りの視線も収まって大丈夫みたいだけど、中学の時はなかなか言葉の暴力が止まなかったから、今回も心配した。けど、夜市に学校連れ出してもらえて外の空気吸ったら楽になったって、ゆいがそう言ったんだ」




悔しげに顔が伏せられる。
そんな布瀬を通して、きっと俺よりもたくさんの梅野を知っている布瀬を羨ましく思った。