口に含んだ目玉焼きはなんだか不思議な味がしたけれど、梅野の初手料理なわけだから、文句は言わないことにする。
「夜市くん、目玉焼き、醤油でよかった?」
「ん?」
「ほら、目玉焼きってよくなにかける派とかあるでしょ?」
「あー、俺はだいたい醤油。たまにポン酢かな」
「へー、ポン酢? やったことないかも。わたしは基本漬物だから」
「…は?」
「目玉焼きに漬物って合うんだよ、それからゆで卵にも」
「調味料は百歩譲っても漬物はおかしいだろ」
「おいしいのに」
そういえば一向に醤油を取らないなと思っていた梅野は、ほんとに目玉焼きに漬物を乗せて食べていた。
真似てみれば案外いける味で白米も進む。
「夜市くん、口元、醤油ついてる」
ほとんど食べ終えた頃、梅野が自分の唇を指して場所を示してくる。
普段なら普通に対応するものの、咄嗟に働いた悪心で梅野を見つめ返してみた。
「とって」
「…え、じ、自分でとってよ」
「俺見えねーもん、梅野がとってくれよ」
ぐ、と口を噤んだ梅野がとってくれるのかと思いきや、ばっと強めに飛んできたティッシュ。
「それで全体拭いて!」
「……可愛くねーやつ」
おとなしく拭き取って残りの目玉焼きにかぶりつく。すると今度は梅野が盛大に吹き出した。
「なに笑ってんだよ」
「ふ、だって、次は黄身が口についてるから…っ」
そう言って、あははと目尻を和らげる梅野。
こいつのツボはマジで意味わかんねーなと思いながら中身のない会話で食べた朝ごはんは、なぜかいつもより美味しかった。