「泊まるって、え? ここに?」
「あぁ」
「なんで?」
「動けないから…?」
事実、まだ痛みが残留する身体に合わせて顔も歪ませてみる。すると、「たしかに…」と呟いた梅野の眉が困ったようにひくついた。
「無理ならべつに、このまま帰るけど。まあ、少し足が悪化するくらいで」
「え」
「あーあと、親に知られたら激怒される」
「え」
「まあ多少、身と心がぼろぼろになりながら眠りにつくだけだな」
「わ、わかったよ!」
……よし。
梅野の了解を得られて気抜けしたように再びソファーに身を寄せる。
その後は風呂場を借りて、軽くシャワーを済ませた。難関は洗髪だったが、梅野が顔の傷にお湯が触れないよう、洗面台に椅子を置いて洗ってくれた。梅野が風呂に入っている間に母さんが洗ってくれたマフラーの紙袋を机の端に置いておく。
そうして待っていると、
「夜市くんの冷血漢」
風呂から出て、ドライヤーで長い髪を乾かし終えた梅野が眼前で仁王立ちをしてくる。
「わたし、結構今日、至れり尽くせりのサポートしたんだけど。それなのに、お礼一言も聞いてないよ」
「……」
「ありがとうは?」
「…ありがとう」
「ふ、よくできました」