「なんでこんなことになってるか教えてやろうか? 恋人がいる女に手を出した、だからその男がキレて殴られたんだよ……は、笑えるだろ?」



ドラマなんかでたまに見る展開。

それが自分にも降りかかるかもしれない未来を今の今まで想像すらしてこなかったなんて、本気で笑えてくる。



呆れた顔でもして帰ってくれればいい。

そう思うのに、見上げた梅野はなにひとつ微動だにすることなく、また俺の腕に触れてきた。




「どうでもいい」

「……は?」

「どうでもいいよ、わたしはただ、夜市くんが怪我してるから手当てしたいって言ってるの」




なんで、そんなに真っ直ぐな目で見てくるんだ。

俺は、少し合わさっただけでも、逸らしたい気分なのに。




「夜市くんの家、ここからどれくらい?」

「…まだ、先」

「じゃあ家(うち)の方が近いから、わたしの家行こう」

「は、」

「言うこと聞かないなら、もう明日から話さないから…!」




子供みたいなことを言う梅野にぐっと眉根が寄る。観念して「わかったよ」と呟けば、安堵したような笑みが浮かんだ。

寄りかかることを促すように傾けられる身体。
そのまま身を任せていたものの、梅野の白いアウターに血が付着したことに気づいて動こうとする。けれど梅野が気にも留めない様子で一向に離そうとしないから、また胸の中心が勝手に疼いた。