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沈みきった夕日が空の色を変えて、薄まった藍のような遠くの山々と同化しつつあった。



全く来ない俺に呆れて、もう梅野は帰っただろうか。


微かに動く指先をポケットに入れるも、そういえば梅野の連絡先すら知らないことに気づく。

打つ手がなくなって脱力した。



まあでも、こんな姿見せるわけにもいかねーしな。



身体を預けていたフェンスの隙間に指を置く。

殴られた箇所から固まっていた血が突如暴れるような痛みをなんとか我慢しておそるおそる立ち上がった。



見渡すと見覚えのある通路があり、とりあえずそっち方面へとゆっくり歩み進める。



やがていつもの通りに出れると、目の合ったおじさんにばっと逸らされた。

腹の辺りと頬と口周りが酷い有様になっているのは鏡に映さなくてもわかる。



足すらも気が抜けたように棒になって、壁を沿って歩くしかない。


父さんと母さんにばれないように部屋に入れるか? ………やるしかないな。











「夜市、くん…?」



ズズ、と靴の踵が擦れるのに混じって嫌な予感がした。


振り向かなくても、声でわかってしまう。



……なんで今なんだよ。



目を閉じて顎を引くと、だだだっと足音が駆け寄った。