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『なんでそんな酷いこと言えるの?』
『最低だよ、氷牙は』
だったら近寄らなけらばいいのに、不特定多数の女がいた俺は、よくそんなふうに罵られた。
きっかけなんてのはその辺に転がっている。
学校の先輩にやたらと女を紹介されて、あーこういうものかとずるずる流されるままに遊んできた。
そして、俺を罵る声と同程度に、本気で人を好きになれないなんてかわいそうだと言う声もあった。
『ほら、きっと片親だとか、誰かに裏切られたとかさ、そういう経験でもあるんじゃない?』
『あーだから、ああなったのかな』
『あそこまでねじ曲がってたら、そうでしょ』
人は勝手に暗い過去でもあるんだと判断して同情して、哀れみを向けて。でも、そんな過去は、なにひとつなかった。
そもそも俺は、好きだとか嫌いだとか、そういう状況にすら陥ったことがなかった。
自分が周りと少しズレているんだと気づいたのは、中学の頃だったと思う。
ある日、一度だけ身体の関係を持った女に、自分と付き合っていると勘違いをさせてしまった。
否定した俺に泣きながら、「今はそれでもいいから、いつか好きになって」と言ってくる。
めげずに尽くされ、時には照れくさそうに一緒に帰ろうと誘われて。休んだ次の日には、体調は大丈夫かと一目散に聞いてきたりもした。