男の手が胸ぐらを掴む。
圧迫された首元のせいで呼吸もしずらくなってくると、それを楽しむように力が更に加えられて。
こっちも腕を掴み、引き離そうとはしたものの、圧倒的肉体の前では無意味だった。
……くそ、いてえ。
なんで家知ってんだよ。
いや、情報通の花音ならそれくらい当然か。
「俺は自分のモノに手出されるのが嫌いなんだよ、わかるか? 心当たりあるよなあ?」
がん、と殴られ血を吐く。
久々に感じた物理的な痛みは自分のせいだけど、やっぱり痛かった。
「こいつとどこまでした?」
声がヒヤリと空気を縛る。
「どこまでしたんだよ!!」
荒ぶる男。その後ろでは花音が怯えた目でこっちを見ている。
「さ、さっきも言ったじゃん、氷牙とはキスだけで、性行為はしてないよ、ねえ?」
早くこの場を終わらせたいのは花音も同じようだ。同意するために小さく頷く。
あやふやな記憶を辿ると、たしか、偶然ふたりになった教室で花音から誘うように唇を重ねてきたのが、こんな関係になったきっかけだった気がする。それ以降、とくに家に行ったりもしていないし、そもそも日も浅い俺と花音は、身体に触れはしたものの、確かにまだ性行為はしていない。
振り返りながら、相当クズだと自分でも笑えてくる。
今こんなことになっているのも、梅野の元へ行けないのも、紛れもなく俺のせいだった。