「家に乗り込んでもよかったのに、自分から出てきてくれるとはな」
ラッキーだったぜ、と男の声が這いずった瞬間、どがっと勢いよく殴られた。
「ッ、」
わけがわからず腹に激痛が走る。視界が反転して、悶えて屈曲した身体が引きずられているのだとわかった。
街の喧騒が遠のいていく。
抵抗しようにも、男の力が尋常じゃないことを感じとった頭が危険信号を出す。錆びれた廃墟の裏のような、ひとけのない場所に引き連れられた時には、もうどうしようもなかった。
「おいおい、1発でこれじゃ困るんだよ。まだ殴り足りてねぇってのに」
聞いてんのか、と揺さぶられる。
切れたフェンスに背中を打ちつけられた。
ようやく開けることのできた視界では、知らない男が俺を見下ろしていた。
それと同時に隣の女にも目がいく。
「っ、おま…」
花音だった。
すぐに俺から視線を外した花音は、男の背後に隠れるように移動する。
………めんどくせえ。
一瞬で状況が半分くらい理解でき、そんなことを思う。
そして、
「…わるいな」
「あ?」
向こうできっと待っているはずの梅野を思い描いて謝った。