「………」
巻き終わった梅野が俺をじっと見つめてきた。
だから動けなくなり、見つめ返す。
微動だにしない影を寒月が寄り添うように仄かに照らした。凍えるようだと嘘をついた指先はジリ…と微かに熱さえ生んで。
そわそわと胸のあたりが落ち着きをなくす。
流れる時間がやけに遅く感じた。
「夜市くん」
「……なんだ」
「もしかして、ポテト食べた?」
「───は?」
月明かりの真下、壊れた雰囲気がガラガラと音を立てて崩れていく。
「いや、今ね、頭のなかで夜市くんがさっき食べたメニューを当たるゲームしてて」
「なんだそれは!」
「だって忙しくてなに食べてるか見えなかったから。それで唇潤ってるから揚げ物たべたのかなって、それでポテト、どう?」
「しるか!」
足早にどんどん進む俺を、「なんで怒ってるの?」と聞いてくる梅野が追いかける。
……くそ。なんてゲームを勝手に開催してやがんだ。
俺が真剣に見つめ返していた瞳で、梅野はポテトのことを考えていたなんて、恥ずかしすぎる。
ヘンテコ梅野め、どうなってんだ、あいつの脳内は。
待ってよ、と近づく足から逃げていると、必然と辿り着いた分かれ道。足の速い梅野から全力で離れようとしたからか、呼吸が荒い。
「じゃあな、俺は帰る」
「わたしも帰るよ、あ、ちょっと」
ぐいん、とコートを引き止められる。
カサカサと探し当てられたふたつのあめが、慣れたようにポケットに入れられた。
「ばいばい、来週、楽しみにしてるね」
俺が先に向けてやると思っていた背を梅野が淡々と追い越して進んでいく。
むかついたってなんだって、俺だって楽しみだと思ってしまうこの心臓だけは止めようがなかった。