「なんで俺だけ睨まれんの。顔はともかくとして、全体的に俺のがいい男だろ!」
くそう、と肩を沈ませる直江に普段は湧かない興味が立ち寄る。
「おまえ、そういや恋愛経験あんの?」
「…………ほぼない」
「は、おい、おまえのアドバイス参考になんのか」
「なるって! 俺が今までどれだけの少女漫画読んできたと思ってんだよ、女心は誰よりもわかる自信がある!!」
「その顔で少女漫画かよ」
「どの顔だよ、いいだろ別に!」
知らなかった情報に少し驚く。
俗に言う『恋バナ』なんてものとは無縁だったからか、小石を投げられた水面のように妙なむず痒さが肌を通過した。
「とにかく! 俺はお腹満たしたら適当に帰るから、おまえ、ゆいちゃん誘えよ?」
食べ終えた直江は本当にふらっと帰っていき、残った俺はポテトをただひたすらに口に運ぶ。
バイト終了時間になったのか、梅野が従業員専用らしき奥へと見えなくなった瞬間、最後のポテトを急いで食べた。
鞄を持ち、視線を下げたことで、未開封のままの塩の袋に気づく。どうりで味がしないわけだ。
俺がこんなに周りが見えなくなっていることに自分自身で戸惑って、ぱさついた喉元に最後に水を流し込んでからレジへ向かった。