「あのあと、氷牙くんと一緒に学校抜け出したんだって?」

「あんま調子乗らないでよ」

「かわいそうで助けてくれただけなんだよ?」



既に怪しい雲行きに足を踏み出そうとすると、「それで?」と冷静な返しが耳に入ってきた。

聞き間違えるはずがない、これは梅野の声だ。

周りの女たちが呆れた顔をする。




「それで、言いたいことってそれだけ?」

「なによその態度、不倫女のくせに!」

「なにをどう聞いたのか知らないけど、わたしは不倫はしてない。あなたたちが信じなくてもそれが事実だから」



どうやら助けはいらなかったようで、梅野のドシッと構えた後ろ姿に安心する。

言い返そうとした女が口をつぐんで花音を見た。



「花音からもなんか言ってやってよ」

「ちょっと黙ってて」

「はあ? 元はと言えば花音が、」

「今、それどころじゃないのっ…」



なんだ、あいつ。

珍しく花音が少し離れた脇にいると思ったら、強張った表情でずっと携帯を眺めている。



「意味わかんない!」


キレだした女たちがもうどうでもいいというように教室のなかへ入っていき、花音は急いでいる様子で駆けていく。

すれ違う俺を警戒するような目で見てきたことだけが少しだけ引っかかりはしたものの、ふぅ、と息を吐いている梅野のもとへ近寄った。