もうすぐ授業が始まるというのに迷わず反対方向を突っ切る俺たちは、すれ違うたびに視線を注がれる。

とにかくひとけのない場所へ出るまで梅野を引っ張り続け、やがて体育館裏の石階段に出た。



「なに罪人みたいな顔してんだ」


俺以外もう誰も周りにはいないのに、背をこごめ、目線を下げる梅野。



「おまえ、なんで言い返さなかった? 他人は守れるくせに自分は守れねーのかよ」


いつもの梅野ならできたはずだ。

見て見ぬふりをしない、いじめを注意する梅野なら、平然とした対応でやり返せたはずなんだ。




納得がいかず眉を寄せると、ササ…と微風を受けた嫋やかな髪がぱらぱらと震える。



「不倫はしてないけど、中学の頃、先生のことが好きだったのは本当なの」


その刹那、交わった眼は、あの時見たのと同じように愁いを含んでいた。




いつかの夜の帰路、好きな人がいたことはないと悲しげに言っていた梅野が蘇る。

あれが嘘だというのは薄々勘づいていたけど、直接紡がれた事実がより重みを増して身体の真ん中辺りに影を落とした。