「なんだ、氷牙じゃん」
ただならぬ空気のなか、おはよ〜と微笑む花音には不気味さを通り越して嫌悪感が募る。
「なにしてんだって聞いてんだけど」
「なにって知らない? 梅野さんの噂、"不倫"してたんだって、しかも中学生で先生と。…あ、そっか、遅れてきた氷牙は知らないかー」
梅野の足が少しずつ後ずさっていく、まるで恐怖とは別のなにかから逃げるように。
「そこどけ」
「は? 聞いてた? 梅野さんが、」
「どうでもいい」
大きく張った声に、周りの女が何人か振り返って。
花音だけが、眉を寄せて、ぶれない瞳で挑んでくる。
「事実だろうが嘘だろうが、どうでもいい。とりあえずおまえら邪魔だ、散れ」
はっきり言い放つと、信じられないというような目つきで途端に連中が吠えだした。
「意味わかんない」
「なんで氷牙くんがこの女の味方するの?」
「いつもの氷牙じゃないじゃん」
なにもかも無視して突き進もうとする俺を花音が阻む。
どけよともう一度落とすと、不快感を露わにした顔がゆっくりと持ち上がった。