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「なんで遅刻したんだ」
「ちょっと寝坊して」
「はぁ、今後気をつけるんだぞ」
はいはい、と。だるい頭を下げながら職員室を出る。
よりによって両親が早く仕事に出る火曜日にアラームを自ら止めて寝過ごすなんて、ついてない。
冴えきっていない寝ぼけ眼で廊下を見渡すと、いつもより校内が異変を放っていた。それは教室に向かうにつれて大きくなっていく。
「あの梅野さんが?」
「やっぱ顔いいと、やることやってんだね」
梅野の名前が出た瞬間、思わず棒立ちになる。
ヒヤリと背筋が滞った。
……梅野がなんだよ。
まさか、花音が…。
前に進む足が速くなる。
すぐそこまで見えている教室に入ろうとしたけど、梅野は教室の前にいた。
安堵したのも束の間、囲うように花音とほかの女たちが群れを成していて胸騒ぎを覚える。
「おまえら、なにしてんだ」
投げた声が波のように広がって、真ん中にいる梅野と目が合った。
視点の定まらない瞳がゆらゆらと揺れ動いている。