「あーあ、いい子いないかなー、俺自身を見てくれるような心根の優しい子がいいな」
上を向いていた直江が俺の視線に瞳を合わせて、ニッと口の端をあげる。
「ゆいちゃんとか」
瞬間、持っていた箸の1本が滑って、追いかけた指先で握りなおす。
無意識に唾を飲み込んだ。
「──冗談だよー、焦った?」
「あほ」
誰が焦るか。
べつに梅野が布瀬とどうなろうと、直江とどうなろうと、俺が騒ぐほどのことじゃない。
なかなかつまめない肉の横のコーンを苛立ちながらつつく。
「はぁ、薄々気がついてるくせに。認めなくてもいいけどさ、後悔するよ?」
「しねーよ」
「するよ、俺の直感がそう言ってるもん」
つつきすぎて飛ばされたコーンが机にはみ出た。面倒になって箸を置く。
「なぁ、氷牙、今日1日、誰のこと考えてた?」
……梅野。あいつのこと。
しまいこんだ返答が、やけに頭のなかで反響する。
見ないように、考えないようにしていた抗いが、もうすぐそばで崩れていきそうだった。