本気で眠いし、心なしか、身体が嫌な匂いを放ってそうで顔をしかめる。
それもこれも昨日暇つぶしにたらしこんだ女のせいだ。あいつは完全にハズレだった。
いくつもの香水が混じったような匂いを纏っていた部屋のタンス。その近くにベッドがあったせいで胸焼けしそうになるわ、いちいち女の声が大袈裟で甲高いわで、論外にも程があった。
まだ鼻を刺してきそうな感覚にぶわっと震えが走る。
急ぎ足で角を曲がると、氷牙〜と、しつこく追いかけてくる声が後ろで響く。
無視だ無視。
昨日の女のせいで、今はほんとにそういう気分じゃない。
人の波に紛れてしまえば後はこっちのもので、見えてきた図書室の扉を静かに開けて中に入った。
途端にしん…となる空間。
誰もいねえな。
ラッキーだと思い、寝心地の良さそうなイスを連ねてその上に背中を預けた。
図書室に来ることは滅多になかったけど、ここも割といいな。
そんなことを思いながら本特有の香りと共に眠りにつこうとすると、突然、カタ、と音がした。
思わず起き上がり辺りを見渡した先で、見知った顔がいて驚く。
「…梅野」
「どうも」
「なにしてんの」
「本、探してる」
必要最低限の受け答えだけした梅野は俺をそれ以上気にかけることもなく、本棚を見てまわる。
……また、梅野。
この間の偶然といい今日といい、最近、梅野と遭遇率が高いのは、あまり嬉しくない。