慣れている。
こういう会話も、視線も、そう思うことは自然なことだし、俺があいつらでも、俺みたいなやつはムカつくだろう。
「もうこうなったら、氷牙くんに決めてもらおう」
いつのまにか、女たちが丸くなって話していたらしい。
「氷牙くんは誰の隣がいい?」
向けられる視線に酔いそうになって、立ち上がった。
「全員パス」
「「ええ!?」」
文句を言われる前にドアに手をかける。
「悪い、帰るぞ」
直江にそう言い残して部屋を出た。
背に受ける追い風が冷たい。
外に出てすぐの横断歩道で信号が青になるのを待ちながら、白い息を吐く。
「ひょーがー!」
「…おまえ」
「あんな急ぐことないだろ、早歩きだなぁ」
後ろから追いついた直江が肩に手を置いた。
抜け出してきたのか、あの空気のなかを。
…珍しい。
直江は俺と違って、あまり途中で物事を投げだすタイプじゃないってのに。