「うん」
短くそう落とした梅野が、そろそろタクシー来るよねと言って前を歩く。
そのあまりの動揺のなさに、戸惑った。
「なにが、うん、なんだよ」
「なにがって間違えたんでしょ。わかったって意味のうんだよ」
なにが、わかったんだ。
俺ですら、わからないのに。
なんで、おまえの方が余裕そうなんだ。
「気まぐれでしょ、戯れただけ。夜市くんはそういうの、たくさん経験あるって知ってるから」
淡々と喋る梅野は、こういうときだけ表情をつくらない。読めない。
いっそ、前に承諾なしで首筋に触れたときのように怒ってくれればいい。
無反応で、なんともない。
そんな顔をする梅野は見たくなかった。
結局その日、タクシーに乗る瞬間から出る瞬間、帰り道すべて梅野とは一言も交わすことはなかった。