意識しなければ感じない程度に漂ってくる梅野の匂いは、悪くない。
「おまえ、なんか髪につけてんの?」
「え?」
香水のようなきついのじゃない。
この匂いは、梅野の髪に近づいたときだけ、ほんの少し、鼻を掠める。
「なんで?」
「いい匂い、する」
「…あ、シャンプーかも。もらいもので、使ってるんだけど、自然なかんじでサラサラするし、匂いもいいの」
「へぇ。誰にもらったんだ?」
「…お兄ちゃん」
なにか思い出しているのか、梅野が嬉しそうに笑う。
「一緒には暮らしてないけど、兄がふたりいて、自慢のお兄ちゃんなんだ」
そういえば、梅野の家族の話なんか、聞いたことなかったな。脳裏にそんなことが浮かんだのと同時に、当たり前だろと思いなおす。
俺が梅野の家庭事情知って、どうすんだ。