「えーなんで、おいしいのに」
「人それぞれって言葉、知ってるか?」
「口に入れると甘さでいっぱいになって、イライラしてるときとか、糖分補給になるよ? あ、夜市くんにピッタリじゃん、いつもイライラしてそうだし」
「どういう意味だ、こら」
「へへ」
なにが、へへだ。
だいたい、怒りが解けるの早すぎなんだよ。
数秒前まで黙りこくってたくせに、もう満面の笑みを浮かべやがって。
「今度、新発売のあめあげるね」
「新発売?」
「うん、コンポタージュ味が出るの」
「……絶対まずいぞ、それ」
「そうかな?」
そうに決まってる。
『サルの共食い』を読んでいたときから思ってたが、梅野の好みは特殊すぎる。
熱烈に語るあめ話を聞きながら、前髪を浮かせた風に片目をつむると、後ろで梅野が足を止めていて。
おもむろに振り返る。