豹牙さんは考え事があるとここに来るのだ。


「明日の最終確認をしに来ました」


そう告げると豹牙さんは「そうか」とだけ返し、再び前を向いた。私はその斜め後ろに立ち、手元の資料を広げた。


それから一通り確認を終え、帰ろうとしたとき。


「なぁ、冴妃」

「はい」


豹牙さんに呼び止められた。

いつもとは違い、どこか儚さを纏っている。

そんな様子に目を奪われていると、豹牙さんが小さく口を開いた。



「明日負けたらどうなるんだろうな」



風が吹けばすぐにかき消されてしまいそうな、曖昧な問いかけだった。


豹牙さんはもしもの話をしない。

ましてや負けたときの話なんてもってのほかだ。


なのに何故──────え?