「そうか。お前にしては遅いな」
「すみません。バイクは普通一人乗りということを忘れてました」と素直に謝ると、
「別に謝ることじゃないだろ」と小さく笑われた。
それからまた沈黙が訪れたけれど気まずくはならない。むしろ心地いいまであった。
がっちりとした背中に頭を預け、横顔を盗み見ると、夕日に対して逆光になっているおかげで、端正な輪郭がよりハッキリと分かった。
前を捉える瞳はゆらゆらと揺れているように見える。
そしてこの瞳には見覚えがあった。
去年の11月。【堕天】との抗争の前日。
豹牙さんが初めて弱音を吐いた、あの日────。
「なんだ、冴妃か」
寮の屋上を訪れると、予想通り豹牙さんがベンチに座っていた。