「お前が俺を前にして逃げるのは初めてだったからな」

「逃げてません。体調が悪かったんです」

「あーそう」



豹牙さんは挑発するように笑いながら、ただでさえ近い距離をさらに縮めて───コツ、とおでこを合わせてきた。



「・・・地味に痛いです」

「逃げた罰な」

「えっ」



逃げてないってちゃんと言ったのに。

信じるかどうかは置いておいて、私が逃げてないと主張しているんだからそういうことにしてくれたっていいのに。


抗議の意味を込めて見上げると、簡単にかわされた。

何とか目線を合わせようとチャレンジしたけど、全て失敗。悔しい。


豹牙さんは痺れを切らしたのか「もう行くぞ」と玄関に向かってしまった。

私も慌ててその後を追う。