豹牙さんたちを見るのが苦しくなって目を背けた。

それから賢人をそっと声をかける。



「賢人。体調が悪いので私は早退します」

「はっ?おい冴妃!」



賢人の呼びかけも聞かずに、私はこの場から走り去った。


───いや、逃げた。


豹牙さんを前に背を向けて逃げるなんて初めてのことだ。

失望されたかもしれない。


それでも、いてもたってもいられなかった。

あの空間にあれ以上いたくなかった。


どんな相手を前にしても逃げたことなんてなかったのに、なんで。

なんで、こんなことでこんなにも気持ちが揺さぶられるんだろう。


数学のテストで首席を取れなかった、それだけのこと。

傍から見れば私が気にしすぎなのかもしれない。