動揺する心とは裏腹に身体はキビキビと動いた。


すぐにここから去らないと取り返しのつかないことになる気がする。


ドアノブに手をかけたところで、後ろから不機嫌な低音が聞こえた。



「俺がそんな冗談を言うと思うか？」

「っ、知りません」



一瞬手が止まりかけたが、すぐに逃げるように退室した。

心臓がバクバクするし呼吸も乱れている。


あの雰囲気は本当にキケンだった。
何がキケンだったのかは上手く説明できないが、豹牙さんの雰囲気が今までとは違った。


妙に大人っぽかったといいますか、魅惑的といいますか･･･。


思い出しただけでも耳に熱がこもる。



その後エレベーターを待っていても豹牙さんが追いかけてこなかった。

そのことに安堵すると同時に、本当にアレはなんだったのかとモヤモヤが残った。





「あ、冴妃。ちょうどいいところに来た」


渡り廊下に差し掛かったところで裕次郎さんにばったり会った。