「──ふざけてるのか?」



そのたった一言で周りの空気が支配された。

殺気を孕んだ、地を這うような低音。

私に向けられた言葉ではないのに全身が(あわ)立った。心臓がドクドクと跳ね、血の気が引いていく。

逃げようとしていた【堕天】の連中でさえ動けなくなっている。

豹牙さんが一歩踏み込んだと同時にあやなの腰が抜けた。地面にへたり込み、短い息を吐くばかりだ。まともな呼吸すらできていない。

それでも尚豹牙さんから視線を逸らすことはできない。

少しでも動けば殺されてしまいそうなほど鋭利な視線があやなを突き刺しているから。



「その足りない頭で冴妃の命令無視した挙句、そんなお前を守った冴妃が怪我を負うなんてな」



────あぁ、終わったな。


直感でそう悟った。

あやなは豹牙さんの地雷を踏んだんだ。

もう【黎明】にはいられない。


豹牙さんは女子だけではなく人そのものが嫌いだ。だからその分自身が認めた相手は人一倍大事にする。