ゴン、と音がしたせいか、その音を聞きつけた賢人が慌てて降りてきた。


「───何事だ!?」


「賢人」と呼びかける気力すら湧かず顔だけ上げると、賢人は目を丸くして固まった。その瞳からは心配の色が伺える。


「冴妃?どうした、幽霊でも見たのか?」


幽霊?

いきなり何の話だと思ったが、玄関鏡を見て自身がそう言われるほど酷い顔をしていることに気づいた。

完全に憔悴しきっている。

これはすぐに部屋に戻って休まないと。

そう思うのに身体が言うことを聞かず立ち上がれなかった。


「・・・すみませんが肩貸してもらえませんか?」

「嫌だ」

「えっ。────わっ」


視界がぐらりと揺れ、浮遊感に包まれた。