私に相談せずに行き先を決めるという点では、豹牙さんも両親と同じなのかもしれない。

でも豹牙さんにそれをされても嫌じゃないのは、きっと、私のことをたくさん考えているからだ。

理想で塗り固められた『一条冴妃』ではなく、ありのままの『私』のことを。


今だって仕事の邪魔をしないことを条件に豹牙さんの部屋に居座らせてもらっている。

一応個室は用意されているが、一人でいるより豹牙さんといたいという私のわがままを聞いてくれたのだ。


ここ最近豹牙さんに与えてもらってばかりいるから、私も何か返したい。

でも私に何ができるだろうか。

豹牙さんの飲み物がなくなりそうだったら新しいのを淹れたり、小腹がすいていたら軽食を作ったり、肩や首が凝っていたらマッサージしたりしたが、それらはいつもしていることと大して変わらない。

もっと他にないのか。
もっと豹牙さんが喜びそうなことは──。


「冴妃」

「はい」


豹牙さんに呼ばれたのでピシッと背を伸ばし起き上がると、ポンポンと隣を叩かれ、そこに座るよう促された。