本人に言ったらとても嫌な顔をされそうだから、このことは胸の内に秘めておこう。
そんな和やかな雰囲気に割って入るように、机上からスマートフォンのバイブ音が聞こえた。
見ると私の母親から連絡が入っている。
それだけで心がずしりと重たくなった。
「誰からだ?」
「あ、いえ、別に・・・母親からで」
誤魔化そうとしたが、今更豹牙さんに隠し事をしても意味がないので素直に白状した。
ややあって豹牙さんが口を開く。
「そうか。また泣きたくなったら来い」
「・・・それ私が小6のときの話ですよね?」
"あの日"以来泣いてませんし。
そんな昔の話を持ち出さなくてもいいじゃないかと思う反面、"あの日"のことを思い出し、少し心に余裕ができた。
「"あの日"より『私』は強くなっているので、そんなに心配されなくても大丈夫ですよ。では今日はこの辺で失礼します」
そう言い残し、スマートフォンをポケットに入れ、資料を持ってから豹牙さんの部屋を後にした。