それなのに豹牙さんのことはあっさりと受け入れてしまうのだ。

それは私が豹牙さんを敬愛しているから?支えたいって思ってるから?それとも・・・──。


息が切れたところで豹牙さんの胸板を押し、呼吸を整える。



「っ何で、また私にキスしたんですか」

「お前が可愛いから」



可愛いだなんて初めて言われた。

酸素が足りず、真っ白な頭に浮かんだ疑問がそのまま口をついてでる。



「可愛いって思ったら誰にでもするんですか?」

「そう思うのか?」

「思い、ません」



可愛いからキスするだなんて、もしこんなことを浬や裕次郎さんが言ったら何て軽い人だと呆れるだろう。

でも豹牙さんのこれは言葉の重みが違う。


豹牙さんは今まで数多くの人間に言い寄られてきたが、誰に対しても可愛いと称したことはなかった。
ただ「鬱陶しい」「だるい」「うざい」と愚痴をこぼすだけ。


だから豹牙さんが可愛いと褒めるのは──。



「私だけ、ですね」

「そうだ。お前だけが可愛い」



私の言葉に満足した豹牙さんは、もう一度だけキスを落とした。

悪酔いしそうなほど甘いそれに、今度こそ腰が砕けた。