父はハラジュクタウンのブラームスストリートのはずれに自分の店を建てた。それは父の知り合いの建築家裏原崋山(うらはらかざん)に依頼したものであった。その近くにまことと父の住む家も作っていた。
 2月、まことと、父は店を見に行った。それはサイケデリックなカラフルな、店だった。「怪物レストラン」とポップな店名の入った看板があった。
 まことと、父泰山(たいざん)は大きいリュックを背負っていた。泰山(45歳)は黒髪リーゼントで渋い顔をしていた。痩せているが背が高く筋肉質。両手に黒いグローブをはめている。これは相手を傷つけずにつきをいれるためのものであった。
 まことは両手にピンクのグローブをしていた。またまことは両腕にブレスレットをしていた。シルバーの鎖のハートのついたブレスレットだった。耳にはイヤリング。
 「うわあ、なんだよこれ。いかにもすちゃらかおやじの建てそうな家だぜ」
 と、まこと。
 「おしゃれじゃろ。友達と一緒に考えたんじゃ」
 「おめえの友達かあ。どうせすちゃらかなやつなんだろう」
 「いいや、大芸術家裏原崋山じゃよ」
 「うさんくせえ」
 まことは父と住む家を見た。それは粗末な一階建ての家だった。
 「ああ、店に比べて、自分ちはちっちぇえなあ」
 と、まこと。
 「文句を垂れるな。ちゃんとお前の部屋も用意してある」
 「あったりめえだろ。年頃の娘が住むんだ」
 「そうじゃったな、年頃の息子じゃからな」
 「ああ、てめえ、今なんて」
 「とにかく入るぞ」
 と、父泰山は行った。
 「あ、いや、待てよ」
 泰山は引き戸を開けた。がらがら。
 父親は家へ入った。
 「おい。おやじ、待てよ」
 まことが追いかけた。