それと同時に、慈恩の軽いため息も聞こえた。


「相変わらず、お前のアオイさんに対する態度悪すぎんだろ。なんだ、嫌いなのか」

「いや、別にそうではないけど。アオイは私の家族でも友達でも何でもないもの」


後ろで、アオイが息を呑む気配がした。

きっと、数秒後には酷く落ち込んだ表情を浮かべるのだろう。


それを想像しただけで、ため息が出そうになった。


ほんと、他人に家族のような温情を持たれるほど面倒くさいものはない。それに、自分が望んでいないものならなおさら。


「何でもないって、お前……っ。アオイさんは愛花が生まれた時から誠心誠意兄貴のように育ててくれていただろう。お前だってアオイさんのことが大好きだったはずだ。それなのに、どうしてそんな酷いことが言えるん、」


「慈恩、黙って。今の私に、他人を顧みる余裕がないことくらい、あんたが1番分かっているでしょう。私は今、誰にも優しくなんてできないの。それを強引に求めようとしないで」


吐き捨てるようにそう言った。

慈恩はまた何か言いかけて口を開いたが、諦めたように口を閉ざした。


気分が悪くなった私は、席を立って慈恩を置いたまま部屋を出る。


さっきまで着けていた女ものの仮面をアオイから受け取り、それを目元に当てて固定し終えたら、今夜舞踏会が行われる中央ホールへと向かった。