「今となっては、じじいが昔に言ってたこと、ちゃんと理解できるんだもんなあ。時の流れって、残酷なのな」
まるで私の心を読んだみたいに言うから、私はぎょっとした。
それに、慈恩の敬意のなさときたらもう……。
私は頭を抱えたい思いでいっぱいだった。
「ん、どうした愛花」
「いや、……別に。ただ、私はこれから何に向かって行けばいいんだろうって思って」
「……そうだなあ。気楽に、風に身を預けて心だけは自由なまま、自然の定理に従ってどこかに流れて行けばいいんじゃない?」
「はは、自由だなあ。慈恩はいつも、素敵なことを言うんだね」
視点を変えたら、少しイタいなとも思うけど。
そう思っていることは伝えないでおこう。
「まあな。俺、理想だけは高ぇから」
だって、嬉しそうに慈恩が笑うから。
慈恩は赤くてドでかいソファにどかっと座って、ノンアルシャンパンを2人分グラスに注いだ。
「愛花も飲むだろ?」
そう言って、当たり前のようにグラスを傾けて渡してくる。
私は慈恩の向かい側の1人用ソファに座って、こくりと一口煽った。
「てかお前、仮面は?」
「え? ……て、ああ。アオイに預けてるけど。ちゃんと持ってるわよねアオイ」
部屋の扉の前に静かに佇んでいたアオイにそう声をかける。
「はっ、はい……! もちろんでございます」
アオイが慌てたように返事をした。