「そして島谷課長の処分を決めて、記者会見、と。――ですが明日からというのは? 会長、学校を休まれるおつもりですか? ……明日は土曜日なので、来週からになりますか」

「違う違う! 明日は卒業式だから、午前中に終わるの。わたし二年生だから、在校生代表で出席するんだ」

「ああ、なるほど。そういうことですか」

「で、来週からは新入生のための説明会とかがあるから、終業式までは短縮授業に入るの。というわけで、わたしは明日からまた早めに出社できます。以上」

「分かりました、了解です。――ですが、会長はどうしてそこまで……?」

 彼は首を傾げた。わたしがどうしてそこまで、社員のみなさんのために必死になれるのか、不思議で仕方がないらしい。
 でも、それは父だってそうだったはず。わたしも貢たち社員のみなさんのことを、〝家族〟だと思っているから。それに、この件はわたしが言い出したことだったので、全部人任せにしたくなかったというのもあった。
 でも……、いちばんの理由は。

「貴方と、貴方の同僚だった人たちを早く助けてあげたいから。つまり、大好きな貴方のためだよ」

「会長……」

「まぁ、愛されてるって分かったら、その愛に(むく)いなきゃね」

 ハッとした彼に、わたしはとどめのウィンクをした。それを見た彼は、何だか嬉しそうにニヤニヤと笑った。

「……なに?」

「…………いえ。先ほどの会長が、ものすごく可愛いなぁと思って」

「え?」

「いえいえ。会長はどんな表情をされていても可愛くて魅力的なんですけど。というか、その表情豊かなところが会長のいちばんの魅力だと僕は思ってます」

「……あ、そう。ありがと」

 わたしは嬉しいやら照れくさいやらで、俯いてボソリと呟いた。何だか調子が狂う。
 彼はわたしと交際を始める前と後で、わたしへの態度というか接し方が分かりやすく変わった。特に、二人きりでいる時の愛情表現がかなり豊かというか。わたしが「要らない」と言ったホワイトデーのお返しがその(さい)たるものだろう。
 でも、それはあくまで()()()()()()()()()()のことで、会社ではあくまで秘書として、わたしの支えになってくれていた。

「――とりあえず、ここに載ってる人たち全員の連絡先、わたしのスマホに登録しとこう。アポ電なしで突撃訪問したって、会えないんじゃ意味ないからね」

 わたしは制服のポケットからマナーモードにしていたスマホを取り出し、着信や受信メールなどを確認するついでに連絡先の登録を始めた。個人情報の扱いに厳しいこのご時世に、わざわざ個人の連絡先まで名簿に載せてくれた山崎さん(もしくは秘書の上村さんかな?)は本当に仕事熱心だなぁと思った。