「……あれ? ちょっと待って。山崎さん、さっき問題が起きたのは二年くらい前から、っておっしゃってましたよね? 桐島さんは確か、入社して三年目だったっけ」

「はい、もうすぐ四年目に入りますけど。島谷課長は僕が入社二年目の年から課長になったんで、パワハラに遭い始めたのもその頃からだったんです」

「……なるほど、分かった。ありがとう」

 貢の説明で納得がいった。島谷さんという人は、管理職に昇進したことで「自分が権力を持った」と勘違いして部下に偉そうな振舞いをするようになったということか。

「――あの、私からの報告は以上になりますが。これで、この問題を公表する材料は揃いましたでしょうか?」

 おずおずと、山崎さんがボスであるわたしの顔色を窺うようにして訊ねた。

「う~ん……。わたしとしては、退職されたり休職している人たちからも話を聞きたいなぁと思ってるんですけど。それはこちらで引き受けますから大丈夫ですよ。山崎さん、この資料頂いてもいいですか?」

「ええ、もちろんです。それは会長に差し上げますので、お好きなようにご活用下さい」

「ありがとうございます。今回はわたしの無理なお願いを聞き入れて下さって、本当にありがとうございました。じゃあわたしも、さっそく明日から動いてみます。聞き取り調査が終わったら会議を開いて、島谷さんの処分などを相談しましょう」

「かしこまりました。後のことは、会長に一任致します。では、私はこれで」

 貢に「君が淹れてくれたお茶、美味しかったよ。ありがとう」とお礼を言って、山崎さんは会長室を出て行かれた。


「――ここからは、わたしの仕事だね」

 わたしはマグカップと資料を持ってデスクに戻り、改めて資料の内容を確認しながら言った。

「明日からここに載ってる人たちに聞き取りして、証言が集まったら重役会議。その後は……最悪、本部の監査室に動いてもらうことになるかなぁ」

 ハラスメント問題はグループ内のコンプライアンスにも関わってくる。本部の監査室はその調査を行う専門部署なのだ。